長野県千曲市ではワーケーションを推進していますが、ワーケーションの場を提供する上での移動課題については、こちらの記事に書いた通りです。温泉MaaSは、ワーケーション参加者の移動課題を解決するために開発することになりました。
この記事では、温泉MaaSの第1回目実証実験(2021年2月25日実施)の概要について紹介します。
まずはタクシー配車予約を対象に選択
タクシーの配車予約のみに絞りました。千曲市には、鉄道、路線バス、コミュニティバスがありますが、いずれもワーケーション参加者の移動には運行本数や路線が合わず、料金はすこし高くなるがタクシーのほうがニーズにあっていました。また、参加者が複数で同乗することで料金の高さは緩和でき、またワーケーション参加者同士のコミュニケーションのきっかけになるという狙いもあり、タクシーに絞ったのです。
利用者向けアプリはLIFFアプリ方式を採用
利用者がタクシーの配車予約をするためのアプリケーションを準備することにしましたが、いくつかある方法からLINEアプリを使ったLIFF(LINE Front-end Framework)アプリ方式を採用しました。
アプリケーションの構築方法としては以下の方式があります。
- ネイティブアプリ方式
- Webアプリ方式
- LINE(LIFFアプリ)方式
ネイティブアプリ方式は、比較的自由なユーザーインターフェースが作れる一方で、利用者に合わせてAndroid版とiOS版を作る必要があり、またアプリを配布するにはGoogle社またはApple社の仕組みを使う必要があり時間がかかるため、実証実験における即時的な対応に懸念があります。また、利用者にネイティブアプリをダウンロード・インストールしてもらう手間が発生するため、導入ハードルとなる懸念もあります。
Webアプリ方式は、Webブラウザで利用できるため、ネイティブアプリ方式のような懸念を払拭することができます。一方で、特定のURLにアクセスしてもらう必要があり、提供側からのプッシュ通知(お知らせ機能など)の実装は手間がかかります。
LINE(LIFFアプリ)方式は、LINEアカウントを持っている必要がありますが、国内で8000万以上のユーザーを持っていることから、ワーケーション参加者はすでにLINEアカウントを持っている可能性が高いことが考えられます。またLIFFアプリの実態はWebアプリのため、実装にも特別な技術スキルを必要としません。サービス提供側でLINE公式アカウントを作り、利用者にはこの公式アカウントと友達になってもらうだけで、サービスを提供できるようになります。また公式アカウントを通して、プッシュ通知(お知らせ機能)を行うこともできます。またチャット機能を有しているため、チャットボット等による情報提供も可能という拡張性もあり、今回採用することにしました。
タクシー配車予約機能
タクシーの配車予約に必要な情報を入力して登録することで、タクシー事業者に通知が行われ、タクシー事業者が配車完了入力を行うと、配車完了のメッセージ通知が利用者に行われます。
入力情報は以下の通りです。
- 名前(LINEアカウントの名前を自動入力)
- 乗車場所(あらかじめ決められた乗車ポイントから選択)
- 降車場所(あらかじめ決められた降車ポイントから選択)
- 電話番号
- 乗車人数
- 同乗者(どの程度の参加者が利用したか確認するため)
タクシーの乗降場所の選定
今回はあくまでもワーケーション参加者向けであることから、乗降場所はワークスペースに関連する場所に限定をしました。選択可能な場所は以下の通りです。
- 温泉街1:千曲市総合観光会館
- 温泉街2:万葉超音波温泉・白鳥園
- 戸倉駅
- グーギーズカフェ
- スターバックスコーヒー千曲店
- ホテルうづらや(武水別神社前)
- 姨捨駅周辺:姨捨ゲストハウスなからや
以下の場所は冬季(2021年2月)は降雪影響が懸念されたため対象外となりました。
- 善光寺大本願別院・荒砥城跡
- 戸倉キティパーク
タクシー料金の支払い方法
タクシー料金を現金で支払う手間を省くため、チケット制を導入しました。乗降場所をあらかじめ決めたのもこのチケット制を意識していました。乗降場所間の料金に見合ったチケット枚数を決め、配車予約時に必要枚数がわかることで、利用者の料金への不安感を緩和させる狙いもあります。
タクシー料金のチケット制は、国土交通省の通達により事前申請を行うことでタクシー事業者が導入できる制度「一括定額運賃」があります。しかし、今回は1日だけの実証実験であったことから、タクシー事業者としては走行メーターは通常通り稼働させて料金計算を行い、後日、ワーケーション事務局側とまとめて精算する方式を取りました。
温泉MaaSチケット
タクシーの支払いに使用するチケットは「温泉MaaSチケット」と命名し、将来的にタクシーだけでなく移動サービスや周辺サービスにも使えるようなもの想定しました。
電子チケットの機能を実装することも検討しましたが、まずは紙に印刷したチケットを作成し運用することにしました。これは主に以下の理由によるものです。
- 電子チケットの実装に時間がかかる
- 電子チケットの既存サービス利用には手数料等がかかる
- 電子チケットの支払いに慣れていないタクシー運転手とのトラブルが想定される
タクシー運転手は現金またはクレジットカード、従来のタクシーチケットの支払い方法には慣れていますが、スマートフォンアプリの電子チケットには慣れていません。支払いという金銭授受行為には一定の信頼度が重要となりますが、いきなり電子チケットを導入するのはハードルが高いと考えた結果でした。
参加者20〜30名に1人6枚を配布する程度であれば紙チケットの作成が可能でしたが、その後、実証実験期間を延ばし1人あたりの配布枚数を増やしたため、想定通り紙チケットの作成の負荷が大きくなりました。そのため電子チケット化の検討が進められることになります。
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