温泉MaaSによる路線バスの活用(3)

こちらの記事ですこし触れた千曲市路線バス1日乗車券のデジタルチケット実証実験について、その経緯とともに結果を紹介したいと思います。

路線バスの利用をはじめた経緯

こちらの記事で紹介したように、最初は2021年11月にワーケーション参加者向けに分かりやすいバス路線図・時刻表を作成・配布し、千曲市総合観光会館の窓口でバスの1日乗車券を販売できるようにしたことでした。このときはイベント期間中に5枚の1日乗車券が買われて使われました。しかし、このときは従来の紙面の1日乗車券を買ってもらったため、買ってくれた方がどのような路線バスの利用をしていたのか分かりませんでした。

温泉MaaSでは、タクシー配車予約をアプリでできるようにしていたため、すべての配車予約の発着場所と予約時刻がログで残されており、あとからどのように参加者が市内を移動していたのか把握することができました。そのため、こちらの記事にあるような分析ができました。同じように路線バス利用も乗降ログを取得して、タクシーと同じように参加者の移動を把握したいと考えました。


路線バス1日乗車券のデジタルチケット化

千曲市の路線バスには交通系ICカードは設置されておらず、現金支払いのみであり、データを取得することができません。そのため路線バス利用の乗降ログを取得するには、バス乗降時に何らかの形で記録を残す必要があります。都度払いよりも従来の紙面による1日乗車券をデジタル化するほうがやりやすいことから、1日乗車券をデジタルチケット化してデータを取得できるようにしました。


デジタルチケットによる乗降データの取得

デジタルチケットで乗降データを取得する場合、いくつか方法があります。

    1. 利用者がアプリ画面の券面を乗務員に提示するときに、位置情報(GIS情報)と時刻を取得する。(アプリを起動する方法として、利用者の手動操作する方法と、車内に掲示した二次元バーコードまたはNFCタグにアプリ起動アドレスを埋め込んで、利用者がカメラで読み込む/タッチする方法がある)
    2. バス車内に二次元バーコードリーダーを設置し、アプリ画面に表示した二次元バーコードをかざして、リーダー側で位置情報(GIS情報)と時刻を取得する

今回は実証実験として数日間の運用を想定したため、バス車内に二次元バーコードリーダーのようなハードウェアを設置することは難しいため、上記1の方法を採用しました。

いずれの方法にしても、乗降時のデータを取得するためには、乗降ともにアプリによる券面表示をしてもらう必要があります。千曲市路線バスは、距離制料金ではなく200円均一料金のため、降車時に料金を支払うまたは1日乗車券を乗務員に提示します。1日乗車券をデジタルチケットにした場合、降車時に乗務員にアプリ画面に表示された券面を見せれば良いわけですが、乗車時にもデータを取得したいため、乗車時にも利用者にアプリを操作してもらう必要があります。


路線バス1日乗車券デジタルチケット実証実験

温泉MaaSは千曲市ワーケーション参加者向けのサービスなのですが、路線バスの利用促進はワーケーション参加者のみならず居住者(市民)利用にもつながるものでもあることから、ワーケーションイベントに合わせた実施だけでなく、それ以外にも実証実験をする機会を設けることにしました。計3回の実施は以下のとおりです。

千曲市の路線バスは、千曲市役所によって4社の運行会社に委託されて運行されています。デジタルチケットのような施策を実施するには、実際にバスを運行している運行会社に事前に了解を得る必要があります。今回は千曲市役所にご協力をいただいて、各社に事前説明を行い実証実験を実施しています。

実証実験では、下図のような操作方法で実施しました。乗車時にもアプリ操作をお願いしています。


実証実験結果と考察

今回は実証実験のモニター募集を行い、不特定多数ではなく特定の利用者に限定して実証実験を行いました。

3回の実証実験の結果、ユニークユーザー17名、1人あたり最小1回、最大5回のバスの利用があり、のべ48回のバス利用がありました。17名のうち3名の方はスマートフォンの位置情報取得がうまくできず48回のうち7回の利用の乗降位置情報を取得することができませんでした。そのため後日聞き取り等によりデータを手動で修正しています。

今回、短い告知・募集期間にも関わらず、多くの方に協力いただきました。その中で得られた考察は以下の3点が挙げられると考えます。

    1. バスという移動手段自体、自家用車とまた違う乗車体験があり、乗り心地の良さや豊かな景色などの良さに気づく機会となった
    2. 千曲市のバスにおいて、屋代駅・千曲市役所・戸倉駅・千曲市総合観光会館など交通HUB同士の移動は利便性が高く自然と利用された
    3. 上記以外の幹線から外れた経路は帰りの交通手段等の懸念からほとんど使われなかった

バス自体を利用することに対して、小学生の停留所案内等、乗り心地に関しては非常にポジティブな意見が多かった一方で、やはり主要拠点同士の移動以外の利用は難しく、バスを使われなかった結果となった。よりターゲットを意識したバス運行を考えることで、乗車率を上げる可能性があると考えます。

下図にバスの利用実績とタクシー利用実績を示します。両者を比較するとバスの利用区間に比較的偏りがあることがよく分かる結果となりました。路線バスとタクシーの特性の違いによる利用のしやすさが表れているのではないかと思います。

ワーケーションという県外・市外からの来訪者の行動先として、タクシーの利用履歴から「あんずの里(森・倉科地区)、姨捨エリア、スターバックス(綿半など)への移動ニーズが確認できている一方で、路線バスでは時間帯やルートの不一致からそのエリアへの移動がほとんど確認できません。

基本的に居住者の生活用途を意図した路線バスの運行路線・運行計画であるため、観光用途で使いずらい面があることは仕方ないながら、波動要素が大きいながらも観光来訪者の利用を取り込むことで、路線バスの維持にもつながるのではないかと考えると、観光来訪者の比較的大人数の移動における利用を促すためには、時間帯や時期とニーズをしっかりと考慮した上で路線バスの運行計画に考慮を加える余地はあるのではないかと考えます。


利用したツール

今回の実証実験におけるデジタルチケットによるデータ取得と可視化には、株式会社MaaS Tech Japanが提供するMaaSプラットフォーム「SeeMaaS」スターターエディションを利用しました。

温泉MaaS Developers

日本の観光地の代名詞とも言える温泉街を、ワーケーションとモビリティサービスを組み合わせて活性化する街づくりプランナー、コーディネーター、デベロッパーのためのサイトです。

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